京都市中京区。人通りの多い街角に、ひときわ瀟洒な建物が佇んでいる。「アンビアンス・リフォームサロン」。マンションやビルが建ち並ぶ中で、ある種異質な空気をまとっている。
無垢の玄関ドアを開けて中に入ると、見たこともないキッチンとともに堂脇社長が歓迎してくれた。何でも造作家具と左官技術の粋を集めて作られたオリジナルキッチンとのこと。製作過程の写真集に見入っていると、役員で奥様のめぐみさんがこれまたおしゃれで訊いたことのない名の飲み物を出してくださった。ここは現実世界と隔絶された異空間だ。
はたと任務を思い出した我々取材陣は、アンビアンス・マジックの深みに取り込まれまいとインタビューに取り掛かることにした。
【聞き手】 まずアンビアンスさんの事業内容について教えてください。
【堂脇社長】 簡単に言うと、マンション専門のリフォーム会社です。 マンションを一番得意としています。
しかし今年7月にロゴやホームページを変えたのをきっかけに、「マンションリフォーム専門」という冠(かんむり)は取りました。というのは「物作りの会社」から「愛しくなる住まいや暮らしを提供する会社」に移行しようとしていて、ブランディングを今やっているところです。
【聞き手】 それもマンションが対象ですか。
【堂脇社長】 今も得意なところはマンションですし、中京区にいる以上はマンションのオファーは圧倒的に多いです。だからマンションをベースに、対象を一戸建てまで広げようとしています。
【聞き手】 私、京都のことがよくわからないので教えていただきたいんですけど、戸建てじゃなくてマンションを専門にされているというのはなぜでしょうか。
【堂脇社長】 中京区って言ったらもうマンションでして、今ここで大体75万世帯ぐらいあると思うんです。少し前の数字なので今は変わっているかもしれませんが。
ちょっと京都らしいのは、関東とか府外の人が別荘としてマンションを持っているんです。だから税金を取ろうかって話も今出ているんですよ。いわゆるリゾート税のような。
【聞き手】 なるほど~。
【堂脇社長】 熱海なんかも同じで、人は住んでいないけど所有しているっていう、そういう人がかなりいます。何部屋も持っている方もいますし。
【聞き手】 ほお~。それではマンション専門で歩んでこられた経緯を教えて下さい。
【堂脇社長】 これはたまたまなんですよ。今、創業33年なんですが、最初は店舗とか一軒家とか選ばずにリフォームをしていたんですが、そんな中でマンションの管理会社さんと知り合う機会があったんです。「堂脇さんの会社ってマンションはやらへんのか」って声をかけてもらいました。僕がデザインが得意だというのを知っておられて、エントランスのデザインを考えてくれと。「管理組合さんがもうちょっとおしゃれにしたいって言ってるから」みたいな話でした。そこがマンションと関わるスタートです。だから最初はマンションの専有部分ではなく、共用部分の大規模工事をやっていたんですよ。
で、あるとき管理会社さんから「室内(専有部分)のこともやってくれへんか」と言われて室内をやり出したんです。それをやっていく中で「やっぱりエンドユーザーと繋がった方がいいな」と思い出しました。それは管理会社を介して専有部分のリフォームをやると、手数料が必要だったり、こちらの自由にならなかったり、お客様からダイレクトに話も聞けなかったりするので、それは良くないと感じて、管理会社さんと付き合いながらエンドユーザーを増やしていきました。
【聞き手】 マンション共用部分の工事はどのくらいの期間されたんですか?
【堂脇社長】 10年ぐらいですけど、漏水事故とか音の問題とか、建物で起こる色々な問題を知ることができました。すごくいい経験をさせてもらいました。
【聞き手】 専有部分のリフォームでもその時の知識が生きていると。
【堂脇社長】 その通りです。建物だけじゃなくて、管理組合の動きとか管理会社の考え方も理解できました。
でも管理会社さんも本当は自分の会社で全部を取りたいんですよ。うちみたいな業者はちょっと鬱陶しいはずなんです。お客さんともダイレクトに繋がっているし、お客さんのことを理解しているから。
【聞き手】 お客さんというのは管理会社にとっては住民さんですよね。住民さんのリフォームも本当は取りたいということですか。
【堂脇社長】 取りたいんですよ。それが本音です。今、管理費がどんどん削減されているから、色々な角度で仕事を取っていきたいんです。
うちはお客様から直接受ける仕事と、管理会社さんからの仕事の値段を変えたりしないから、向こうからしたら使いづらい。
【聞き手】 それでも「アンビアンスさんやったらしゃあないな」みたいな関係性をどうやって築いているんでしょうか。
【堂脇社長】 実はこちらが管理会社さんを助けていることもいっぱいあるんです。ときには尻拭いをしたりします。「堂脇さんあのお客さんと繋がりあるやろ。ちょっと揉めてんねん、なんとかして」とかね。そういう揉め事を解決したり。
【聞き手】 それは強いなあ。
【堂脇社長】 それは長くやってるからできることなんですよ。共用部分のところからマンションのことを知ってるので、専有部分のリフォームがすごくやりやすいんです。
【聞き手】 中京区にたくさんマンションがありますけど、堂脇社長は多くの管理会社に顔が利くということでしょうか。
【堂脇社長】 はい。例えば専有部分をリフォームするのにマンションの竣工図面が欲しい時がありますよね。スタッフが行って管理人さんに「図面を見せてください」と言ってスムーズに行く時もあれば、 入居者様から戴けるときもあるんですが、どうしても手に入らない時は、「あの管理会社やったら僕いっぺん電話してみるわ」って言ってサポートします。
【聞き手】 社員さんは心強いでしょうね。それでは他社にはないと思われる取り組みを教えてください。
【堂脇社長】 うちの良さっていうのは、空間デザインと自然素材、性能、この3つが柱なんです。自然素材は大手業者が使いたがらないんです。狂ったり暴れたりといったクレームを嫌がるからです。だからこそうちはあえてそこに積極的に取り組んでいます。
あと自信を持っているのは職人たちの技術ですね。ここ(「アンビアンス・リフォームサロン」)は技術のお披露目の場として作ったんです。もちろん売り上げも大事なんですけど、そういった技術を継承していくこと、そしてその技術を見せることで職人不足を解決したいと考えています。
だからできるだけ棟梁を広報に出すなどして、大工という職業のブランディングを意識してやっています。そうすると「あの棟梁みたいになりたい」って、憧れを持って応募してきてくれる。
【聞き手】 広報に使うのはどういうメディアですか。
【堂脇社長】 SNSやホームページです。ほかにも採用サイトに大工職人のインタビュー動画を載せたりしています。「町家大工の地位を上げる」、そのためのブランディングということで、できるだけ大工の人柄や技術を広報に出すようにしていますし、大工さんには常に新しいチャレンジをしてもらっています。
【聞き手】 自分が大工さんだったら、そっちの方が絶対楽しいと思います。
【堂脇社長】 マンション以外にときどき店舗もさせてもらってて、マンションとは考え方が違うので若い大工の教育になっています。
大工さんの教育といえば、戸建て住宅を自社物件として購入しました。リフォームにあたって、設計会社の3人と僕、棟梁の5人で「町家プロジェクト」を立ち上げました。なぜ設計を自社でやらないのかというと、新人大工の教育のためなんです。設計会社が描いた図面をちゃんと読み取って施工する、というトレーニングさせようという狙いです。
【聞き手】 マンションリフォームの中でも自然素材とかデザイン性とか、他社と違う方向、とんがった方向に舵を切ろうと思われたきっかけはなんだったのでしょうか。
【堂脇社長】 それはマンション専門だったからこそだと思うんですよ。戸建ての場合、自然素材を使ってリフォームというのは、ある意味普通に行われていますよね。でもマンションでは、例えば無垢フローリングはできないと思ってる人が多かったんです。
ここ(「アンビアンス・リフォームサロン」)はショールームとして2代目で戸建てなんですが、1代目のショールームはマンションの一室で、漆喰なんかの自然素材や古い家具、オリジナルキッチンを20年前にすでに使っていました。土壁のグラデーションとか無垢フローリングもあいまって、マンションなんだけど町屋にいる雰囲気。古色とか人間の視覚とか、20年前からすごく意識していたんですよ。
【聞き手】 20年前って早いですね。
【堂脇社長】 おそらく埼玉の㈱オクタさんが自然素材を取り入れ出した同時期ぐらいです。広島のマエダハウジングさんが大きくフィーチャーされたり、JACKとか色んな会ができたり、リフォームブームの第1波のような時代でした。
そのころ僕もよく関東に行っていて、「堂脇さんの取り組みは面白い」とみんなに言われました。でも今から思うとちょっと早すぎました。結局、全然集客できなくて大失敗をしたんです。
【聞き手】 具体的にどんな失敗でしたか。
【堂脇社長】 こういうショールームを作ったらお客さんがいっぱい来て、需要がたくさん生み出せると信じていました。でもその時は広報、宣伝するという意識がほとんどなかったんです。「職人の腕があるのだからお客さんが来て当然」みたいな自信だけがありました。すごく凝った造作で埋め尽くして、「こんなん他の誰も作れへんやろ、どや」みたいな(笑)。
【聞き手】 堂脇社長ってもともと大工さんでしたか。
【堂脇社長】 いえ、僕は大工ではないんです。もともと物作りが好きだったので、京都の若いアーティストの作品を発信しようとショールームにギャラリーを併設して、専属スタッフも雇ってイベントをたくさん開催しました。すると毎月100万円ずつ赤字になって、もう半泣きでしたね(笑)。みんな「いいね~!」って言ってくれるけれど、まったくお金にならなかった(笑)。
どんなことをやっていたかと言うと、空間に合う家具や食器を選ぶのではなく、「ギャラリーにある器から空間を生み出したらしたらどうなるんだろう」って。「この器に合うリビング、この絵画に合う玄関空間を考えましょう」という感じ。
【聞き手】 とても面白いと思います。でもちょっと早すぎたかもしれませんね(笑)。
【堂脇社長】 ドクターが「俺、腕があるから独立したら患者がいっぱい来るやろ」みたいな。いや来ないっていう話です(笑)。根拠のない自信に満ちていたと思います。
集客をしっかりしないといけないという反省を踏まえて、この「アンビアンス・リフォームサロン」が生まれました。まずここはマンションの一室と違って、立地が良くて目立つという要素が大きい(人通りの多い通りの角地にある)。加えて、ホームページやSNS、チラシなどを使って、サロンに集客するイベントを行っています。
【聞き手】それでは、差し支えなければ御社の弱みを教えてください。
【堂脇社長】 いっぱいあります。最重要課題なのは若いスタッフの教育問題です。
今、新卒を中心に採用しているんですが、肝心の教育が追いついていません。目指すところと現実との間に大きなギャップがある。だから知識や技術を習得してもらうために、自社物件を使って教育したり、社外セミナーに行かせたり、それを社内で共有する勉強会を開催しています。
あと年配の人、リタイアした人でもいいんですが、そういう人を雇用して、若いスタッフに仕事を教えてもらおうと考えています。うちの棟梁の父親が大工なんですが、休みの日とか時間が空いたときに若いスタッフに教えに来てもらおうと声を掛けてあります。自社物件もそのために買いましたから。
とはいえその自社物件も再販事業の一環ではあります。町家として再生したあとに販売しますので。
【聞き手】 お聞きしていると今は弱みではあるけれど、それが強みになっていくような感じがします。新人教育のために中古物件を買い取って、付加価値をつけて再販という次のビジネスに繋げていくという強みになっている。
さらにいえば、若い人が次々に入社しているというのがまずもってすごいなと。なぜアンビアンスさんには若い人が入社してくるんでしょうか。
【堂脇社長】 「キャリアマップ」という専門学校生向けの求人サイトで常に発信しています。「スタッフはあなたに年齢が近い20代・30代が中心ですよ」って。それで学生が職場体験に来たら、うちのような仕事がやりたい人は必ずハマってくれます。ここの空間(リフォームサロン)も見せますし、今やっている現場や完成現場も見せます。
「自分もこういう仕事に携わることができるんや」っていう憧れにしてあげると、求人につながる。そこは強みなんですよね、きっと。
【聞き手】 ここは集客の施設でもあり、求人の施設でもあると。
【堂脇社長】 その通りです。最近になってよりそう思いますね。
一方でやっぱり福利厚生も大切だと痛感しています。というのは今日も大学にキャリア授業をしに行ってきましたけど、最近の子は休みが簡単に取れるか、有給休暇は取りやすいか、そんな働き方を気にしてるんやなと感じました。そこのところを会社としてしっかり整備しておかないといけない。
【聞き手】 最近の若い人は給料の額はそんなに言わないですね。とはいえ2030年までに初任給30万時代が来るって言われていますから、 恐ろしいことになると思う。
【堂脇社長】 すでに人材の取り合いになっていますもんね。本当に必要だと思ったらお金を積んでも来てもらわないと、次が育たないんですよ。人を育てるのにお金がいるっていうのは痛感します。
【聞き手】 まずアンビアンスさんの一員になってもらうのにお金がいる。その後も‥。
【堂脇社長】 当然その後も教育にお金が要る。そのために教えてくれる人を雇用することも必要だと思います。
【聞き手】 熟練者はまだまだ需要があるっていうことでしょうか。
【堂脇社長】 はい。ずっと必要ないって思っていたんですけど、今日、大学に行って考えが変わりました。帰ってきてすぐに棟梁と打ち合わせて、熟練者を教育係として雇用する方針を固めました。
【聞き手】 それはリタイアした大工さんなのか営業なのか、どちらでしょうか。
【堂脇社長】 現場管理です。
【聞き手】 現役世代の現場監督って、極端な人材不足ですからね。
【堂脇社長】 自社でイチから育てたいけど時間がかかりすぎるので、リタイヤした経験豊富な方を雇用して、新人監督をサポートしてもらうという考え方です。
【聞き手】 面白いですね。
【堂脇社長】 「若年者に対しての投資」という考え方です。人は投資しないと育たない。
【聞き手】 今の人たちは「見て覚えろ」世代じゃないから、会社側が色々とお膳立てしないといけないんでしょうね。
では次に、社長ご自身の強みと弱みを教えてください。
【堂脇社長】 強みは「あんまり喋らなかったら嫌われない」ところです(笑)。本質的な話さえしなければ、「ものすごく優しくていい人」って言われるんです。初対面で人に嫌われたことがありません。
なぜかというと、これは弱みになるんですが、人に興味がないんですよ(笑)。自分が一番好きだし、みたいな(笑)。
人の話を聞いて、「ああはいはい」って言っておいてその方向に行かないし、「なるほど。ありがとうございます」って言いながら違う方向に向かってる(笑)。
【聞き手】 そのくらい強い意思、独自の考えがないと社長の決断ってできない。だから弱みが強みでもあるってことなんだと思います。
では次に、社員にどんな社長だと思われたいですか。
【堂脇社長】 うーん、「頼りにされたい」っていうのはありますね。「俺に任しとけ」みたいな親分気質があるんですが、でもそれとは裏腹に「社長がいないとできない」ってなるのは、社員の成長を妨げてしまう。
「うちの社長は何もやってくれない」っていう方が社員が成長すると思うんですが、どうしても構ってしまう(笑)。「社長がなんとかしてくれる」っていう雰囲気が社内にあるんで、それが成長を止めてしまっていると感じることがあります。
【聞き手】 堂脇社長が尻拭いに出ていく場面はありますか。
【堂脇社長】 実際に出ていくことはそうそうないですけど、アドバイスなり、根回し的なことはやったりします。
【聞き手】 社長が会社にいないのにうまく会社が回っていくというのは理想ではありますが、やっぱり堂脇社長ご自身、寂しいのではないかと。
【堂脇社長】 その通り(笑)。裏腹なんですよ、こっちも構いたいし、向こうも構って欲しいしっていう。でもそうすると社員の成長に支障が出る。だからダイビングで1週間留守にしたり、会社にいない期間を作っています。それでも出先でLINEをこまめにチェックしてるっていう(笑)。
社員がしっかり育っている会社って、社長がノホホンっていうのを演出してるような気がするんです。実際に手も出さないし、懐が広いというか、
【聞き手】 でも実際は、社長って寂しがりというか、“かまってちゃん”気質の方は多いと思いますね(笑)。では質問を変えます。ジェルコに入会されたのは何年ですか。
【堂脇社長】 3年前だったかな。入会のきっかけは工事保険ですね。
【聞き手】 ジェルコの団体保険は安いですもんね。ジェルコはご自身とか自社にどんな影響を与えてますか。また、どんな期待を持ってらっしゃいますか。
【堂脇社長】 オーソドックスですが、業界の情報とか皆さんの取り組みを知りたいと思っています。あと会員同士の繋がりも大事だと思います。
業界的な人材不足、職人不足についても、1社ではできないけど数社集まって取り組んだりとか、色んな取り組みされているじゃないですか。そういった取り組みを見て、うちでも採用したいなと思っています。
会員同士の繋がりと言えば、大阪マルカンさんとはジェルコで繋がって今ではフル活用させてもらっています。現場養生からお付き合いがスタートして、ハウスクリーニングも頼むようになって、今では解体までお願いしています。
不満足なことがあると必ずダメ出しをしますが、すぐに改善してくる。いったいどうやって教育しているのか、小笠原さんに電話して聞いたりしています。うちの参考にしようと思って。
【聞き手】 支部の事務局担当でもある小笠原さん、いつもニコニコしてるけどやり手ですねえ。
では、お気に入りの本や映画がありましたら教えてください。
【堂脇社長】 アクション映画が好きですね。それとずいぶん昔の映画になりますが「仁義なき戦い」とか男っぽいものが好きです。戦争系も大好きで、「永遠の0」とか「男たちの大和」なんかいいですね。
【聞き手】 本はどうですか?
【堂脇社長】 ビジネス書はよく読んでいましたが、いまはそれも読まなくなりました。今はYouTubeでいろいろ観れるじゃないですか。読むっていうより、観ることの方が多くなりましたね。
【聞き手】 では堂脇社長の座右の銘を教えて下さい。
【堂脇社長】 それはね、笑われそうなのはあるんです。矢沢永吉の言葉で「魂を貫く」っていう言葉があって、実はそれが一番好きなんですよ。
【聞き手】 へー、いいじゃないですか。
【堂脇社長】 いや、あんまり言いたくない(笑)。最近はコンサートも行ってないけど、以前は机の前に「魂を貫く」って貼ってあって、車にも「E.YAZAWA」って入れてました。
【聞き手】 堂脇社長のキャラと全然違いますね(笑)。
【堂脇社長】 そういうのあんまり言わなくなりましたね。でも家にE.YAZAWA のDVDとかタオルがいっぱいある。で、忘年会の最後はE.YAZAWAの「止まらないha~ha」で締めるんですよ(笑)。職人さんで矢沢大好きな人がいて歌ってくれるんです。
【聞き手】 いいですね(笑)。では堂脇さんの休日の過ごし方を。
【堂脇社長】 今は時間があったらダイビングです。一日だけの休みだったらずっと家にいます。家から出たくない(笑)。
【聞き手】 ダイビングはどこの海に行かれるんですか。
【堂脇社長】 ホームは和歌山の串本です。最近は沖縄にも行くようになりましたし、今年はモルジブにも行きました。
ダイビングはコロナ禍をきっかけに始めました。今は「ディープ」というライセンスで40メートルまで潜れます。
【聞き手】 40メートルというと、光はまだ指していますか。
【堂脇社長】 綺麗な海やったら全然指しています。もちろんドンドン暗くなっていきますけど、下を見たらすごく濃いブルーで綺麗なんです。
ハンマーシャークって大体そのぐらいの深さにいるんですが、正面から撮影したいから撒き餌をして飛び込んでいく。
【聞き手】 すごく迫力あるでしょうね、
【堂脇社長】 はい!もう何十頭っていますから。
【聞き手】 堂脇社長、楽しそう(笑)。では、堂脇社長はどんなお子さんでしたか。
【堂脇社長】 お山の大将的な悪ガキやったと思います。「年上になんちゅう喋り方してんねん」「パシリみたいに使うな」みたいに怒られたり、恐いもの知らずでしたね(笑)。
【聞き手】 学生時代に熱中したことは?
【堂脇社長】 僕、全部中途半端なんですよ(笑)。バレーボール部にいましたけど中途半端。その次にバドミントンをやっても中途半端。何かに熱中っていうのはあまりないんですよね。
でもいろんなことに興味はあるんですよ。スケボーを買ってもらって、怖いもの知らずで、まだ止まり方も知らないのに坂をダーッと行って、「うわ止まらへん」ってなってバーンとコケて血だらけとかね(笑)。とりあえずガーッて行くのが楽しい。気をつけて何かやるんじゃなくて、とりあえずやってみようって感じ。
【聞き手】 堂脇社長のイメージとは全然違いますよね。地道で慎重な方なのかと。
【堂脇社長】 そういう風に見せてるだけで、実は何も考えてない(笑)。中途半端だし勢いだけ。そんな自分だから仕事もよく続いてるなって思います。
【聞き手】 では最後の質問です。10年後、この会社をどんなふうにしたいですか。
【堂脇社長】 10年後、僕はこの会社にはいない予定です。その時には、今30代のスタッフを中心に生き生きとやってる状態ですね。今僕らが獲得しようと目指している客層で溢れていて、スタッフみんなが楽しそうにやってるっていう感じに持っていきたい。
【聞き手】 堂脇社長が目指してる客層ってどんな感じですか。
【堂脇社長】 お客さんと僕ら業者は基本的に対等だっていう考え方を持っているんです。双方が相手に対して配慮があって対等の立場でお付き合いできる、同じ目線で話ができる。そういうことができる客層を目指しています。
最近のお客さんって上から来る方が多いじゃないですか。「俺はお客様だぞ」っていう。そういう人じゃなくて、同じ土俵でちゃんと話できて、僕らにもちゃんと配慮してもらえるような人。
例えば営業時間外に来社された方がいらっしゃったとして、「悪いね、時間外に来てしまって」とちゃんと言ってくれる人はOKやけど、「この時間しか無理なんやから仕方ないやろ」みたいな横柄な態度をとる人はうちの狙う客層じゃないなと。
これから富裕層にシフトしていこうとしていますが、それでも物事の考え方とかスタッフに対しての配慮がちゃんとしている方がうちにとって良いお客さんで、そういうお客さんと取り引きをしたいと思っています。
だからそうじゃない人は極力断るようにしています。そうでないとトラブルになったり、スタッフが苦労するんですよ。もちろん仕事は欲しいけど、こちらもしっかり選ばせてもらうというスタンスは崩さないようにしています。
【聞き手】 それ、うちも目指したいな。
【堂脇社長】 初めからそういう人が来ないようにホームページも工夫しているんですよ。それでも一定数そういうお客様はいらっしゃるし、その中でこちらもジャッジをしています。
「この人と一緒に仕事がしたい」っていう人だけを一生懸命やっていったら、そういう人が自然に集まってきてくれるんじゃないかって思っているんですよ。今は違っても、そういう人が来るような会社にしたいと思っています。
【聞き手】 こちらでコントロールするのが難しいことでも、ゴールを明確に設定しておくことは大事だと思います。スタッフ全員でゴールを共有していると、不思議にそうなってきますしね。
【堂脇社長】 あるお客様はうちのスタッフに対してもすごく気遣いもされるし、うちの職人が帰るとき玄関まで見送りに来て、姿が見えなくなるまでずっと立ってくださっています。そんなお客様が私たちの目指す客層です。
〈インタビュー後記〉
堂脇社長とは15年来の付き合いですが、初めて訊くお話しがたくさんあって、興味深いインタビューとなりました。例えば、マンション専門リフォーム店となるきっかけが管理会社発注の共用部分工事だったことを初めて知りました。
また堂脇社長は常日頃から職人さんへ大きなリスペクトを持っておられるのですが、それが建築に限らずアーティストやものづくり全般へ尊敬がベースとなっていることも、このインタビューを通して知ることができました。
そして何よりお客様の選別について。お客様を選ぶというと傲岸不遜と捉えられがちですが、それはスタッフがお客様から対等に遇され、ひいては「楽しく仕事ができる環境を作りたい」という意思の現れだったのだと知りました。堂脇社長のスタッフ愛、会社愛を浮き彫りにできたインタビューとなりました。